春。卒業近し。といえば何がなしに悲しいような。何かをポロッと落としてきたたような、何かにポツンと取り残されたような。

ようわからん変な気分になったりならなかったり(どっちやねん)。

とか思いながら学校に来てみたら

 

 

「ここにもおったわ」
「……なにが」

 

『ようわからん変な顔』したやつが。
とは言わんとこう。口は災いのもと。

「なんでもあらへんよ。そっちこそ、どないしたん?」

校門の前で会うたは、灰色のコート、オレンジのマフラー。いつもの格好に、いつもやない顔で「おはよう」言うてきた。

「……別に」

俺の顔も見んとそんなことを言われてもですねさん。

 

 

 

2月の下旬。
見上げた空は厚い雲に覆われて、灰色。
空に伸びる桜の枝に蕾はなくまだ、土の色。

 

もらした息は、ため息やなくて桃色吐息と言いはりたい中学3年忍足侑士(思春期☆)

 

本日の授業、 

 

「保健室、行こか」

 

友情により、欠席。

 

この季節、授業をサボタージュするに屋上は寒すぎる(サボるいうんは和製英語なんですよ) (何気にインテリな俺)(ひゅーう☆)

 

卒業式を間近に控えた2月末日、教員のセンセ方はみんな忙しゅうしとる。
保健のセンセも例外やのうて、この時期保健室は生徒たちの楽園になる。
鍵さえ開けば、の話やけども。

「…忍足、鍵は?」
「ふっふー心配ないでー」

 

思ったとおり、保健室のドアは何の抵抗もなくスライドした。

やはり。(にやり)

 

 

「ジロー、おるかぁ?」

 

返事がないのは承知やったからベッドまで行ってたしかめる。

 

「やっぱりや」
「あ、ジローくん!」
「こいつ冬はようここに入りこんで寝とるんや。どうやって鍵開けとんのか知らんけど」
「うっわ」

プッとがようやっと笑ったんでちょっと安心した。

 

俺は流しのとなりに置いとるコーヒーメーカーで手早くコーヒーを2人分淹れて、ジローが寝とる反対のベッドに腰下ろしたに渡した。

 

ブラックで飲むのはあいつと同じやな。
影響されたわけでもないやろうけど、なんやちょっと微笑ましい。

 

俺だけクリープを淹れてかきまぜとると、

 

「手馴れてんじゃん。忍足も常連だ?」

 

からツッコミがはいりました。

「てへ☆」
「ありがと、コーヒー」

 

と言いつつはコーヒーに口をつけようとしない。
なるほど。
重症なようで。(ふむ)

 

と跡部がつきあって3月で半年になる。
周囲の予想を裏切って2人は大した揉め事もなく仲良うやってきた。
そらまあ、小さないざこざはちょくちょくあったけども。
そんなときは大体すぐに俺にメールや電話で愚痴をぶつけてきたり。

してたんやけど。

 

「……………………」

昨日はメールも電話もなんもなかった。
わけで。
それは。

つまり?

 

「(大)ケンカですか」

 

言ったものの答えは期待してへん俺はほんとにできたマブダチやね~!ひゅー☆

 

 

は、悩みとかでかなればでかなるほど人には言わんとこあって。
だからこそ逆にわかりやすいっちゅーか。

 

「まあ、あれや。なにがあったんか知らんけども。元気だし」

 

とか言って俺は笑う。

は黙ってブラックのコーヒーを見つめとる。

窓を見れば保健室と外気の温度差に生じた結露が、中庭の風景をぼかしとる。
春になればここも桜が満開になって、授業をサボッて花見をするにはちょうどええようになる。
そのころ俺らはここにおらんけど。

 

 

 

 

 

ミルクコーヒーを一口飲んだ。

 

 

 

 

 

こんなもんやなぁ。
ぼんやりと思う。

どんだけ仲ええダチでも、色恋のからんだ問題で見える2人の内情は結露ごしの中庭くらいのもんや。

恋愛なんて超個人的なもんやと俺は思うし。

正しい悩みがあるわけやなし、明確な答えがあるわけでもなし。

 

悩んどるから悩みを取り去ることはダチの俺にはできへん。

 

 

ただ、

 

「……あんなぁ、

 

俺はお前のダチやから、精一杯結露ごしに応援させてもらうで。

 

 

「お前らが付き合うことになったとき、俺、みんなに跡部の好みはセクシーなのキュートなのどっちがタイプよ~☆てメールできいたやろ?」

「うん」

「そんとき、こいつだけ」

顎で隣のベッドでぐーすか寝とるジローを指す。

「メール、返してこんかったやん。次の日な、おもろいこと言ってんで」

「……なに?」

けげんそうなを見て、つい笑いがもれる。

「『忍足ー!なあなあ、なんであんなメールしてきたんだよー』いや、そらお前、がな、跡部のこと好きでな、あいつの好みをリサーチしたんやで~と事の説明をする俺。したらこいつ、でっかい目、丸ぅして言いよったんよ」

 

 

 

 

 

「えー!!跡部ってずっとが好きだったじゃん!」

 

 

 

 

 

「……え?」

「な?!そうなるやろー?俺も、はぁ?!て聞き返したわ!でもこいつ、ずっとずっと前からじゃん!みんな知ってて黙ってんのかと思ってたぜー!って言うんよ。ちゅーても、俺には思い当たる節なんてなかったんやけどな」

 

はまばたきをして、またブラックのコーヒーに目を落とした。

 

「せやけどジローにはなんや見えてたんやろなぁ」

 

 

コーヒーをすするとちょうどいい温度やった。そのまま飲み干した。

 

時計をちらと見れば、1時限がはじまって約15分。

 

 

頃合いやんな。

 

保健室のドアのすりガラスに人影が見えて、開く前に俺は立ち上がった。

 

「忍足?」
「まーあとは若い人たちにお任せして☆…ほれ、ジロー行くで」

 

呼ぶとジローはぴょんっと飛び起きて、うわばきのかかとをつぶしたまま俺の後ろへついた。

 

ドアを開けると、気まずげに俺をにらむ跡部と真正面から目があった(気まずくても目をそむけんところがほんまこいつやな、と思う)。

「なんだよ?」
「いいえぇ、なんでもあらへんですわ」

ちっ、と舌を打つ跡部の横を通りながら、

「おイタしちゃあきまへんよ~☆」

小声でからかうと、

「忍足、てめぇ!」

ぼっちゃまのお怒りを買うてしまいました。(てへ☆)

 

 

春にはまだ間がある冬の名残に、何かを置いてきたような、置いてかれたような訳もない感傷にとらわれても。

そのたび引き上げてもらえるならそれも悪くない。

 

 

 

「俺も早くそんな娘がほしーわぁ!」
「忍足、モテんのにフッちゃうから」
「なんじゃい、お前も彼女おらんくせに」
「俺は好きなこがいんだよ~!」
「ほう。初耳やな。だれや?」
「もったいないからおしえなE~!」
「けっ!ちゅーか、お前いつから起きてたん?」
「忍足がコーヒーいれたあたりから」
「はじめっからやんけ」
「気づいてたくせに!それよりあんなこと言って今日の帰り跡部におこられンぜー!」
「………やっぱし?」
「ぜったい」
「…(はあ)」
「忍足、ため息つくと幸せが逃げるぜー?」
「ちゃうわ!これはため息やのうて、桃色吐息!!!!」
「ふぅ~ん?よくわかんねー!!」

 

2月の下旬。春。卒業近し。
俺の春と卒業(てへ☆)も近いと信じたい!

 

 

 

 

君はともだち