「うおっ………な、なんだどうしたお前……こんなところで……」
放課後非常階段下でこっそり泣いてたらジャッカルに見つかった。
タイミングがいいんだか悪いんだか。
ジャッカルっていつもそうだ。
S
О
S
!
「なんだ……なんかあったのか?誰か……真田、真田呼んでくるか?」
「(なんで真田……?)いや、…平気……」
「いや……平気じゃねーだろ…………どうした?どっかいてーのか?」
「うん……」
「マジでか、おい、じゃ保健室行こうぜ。怪我か?腹痛とかか?それとも真田呼んでくるか?」
「(だからなんで真田……)」
「おい、どこが痛いんだよ?」
「心が」
「……はっ?」
「心が痛い……」
ジャッカルは一気に落ち着きを取りもどしたようだ。長いため息が聞こえる。
「元気じゃねぇか」
「心は痛いんだよ元気じゃないよくそ…!」
「くそとか言える奴は元気なんだよ!あー、心配して損したぜ」
「もっと心配してよ」
「ほんと元気じゃねぇかお前。なんで泣いてんだよ」
「……くそ……仁王……仁王に……あいつめ……!」
「仁王?仁王とケンカでもしたのか?」
「あいつ、ほんと、詐欺師……うう、もうだめだ、もうばれた……仁王にばれたら部員みんなに知れわたる……ああわたしのアホ……アホめ……うう」
「……仁王に何か言わされたのか?んな重要こと?」
言わされた。あんまりしつこく「真田のこと好きなんじゃろ」ってからかってくるからつい「わたしが好きなのはジャッカルだってば!」と言ってしまったんだ……!
今思うとあれは絶対狙ってた。
最初から仁王はそんなこと知っていて言質を取りにきたんだ。
「ジャッカルだってば!」て言ったあとのニヤっとした顔見たらわかった。
ペテンはコートの中だけにしてくれ……!
「あの詐欺師の口を今すぐピアノ線で縫い付けてやりたい……!」
「……仁王だって、そんな大事なことなら言い触らしたりしねぇって。こんな所でお前が泣いてたって知ったら絶対びびるだろうし……それでも心配だったら真田に一言言っとけば見張っててくれんじゃねぇか?」
「(なんでまた真田……?)……もう嫌だ……あいつの口を塞げないのならジャッカル、いっそわたしの口をタコ糸で縫ってくれ!」
「嫌だ痛そうなこと言うな!つか、いっそ、って何のいっそだ!」
「でなければ貝になりたい……わたしは深海深く誰にも迷惑をかけずに生き、そうして迷惑をかけずに死にたい……」
「暗ぇよ……」
「…………」
「さっそく貝かよ!早ぇよ!あーもー……失言なんて誰にでもあるんだからよ。気をつけててもうっかり言っちまうのが失言なんだ。仁王に何を言ったかは知らねぇけど、もう気にすんな」
「……………………」
「……俺もお前と話せないと面白くねーしよ。もう貝はやめとけよ。な」
「……………………」
「……わかった。貝でもいいから、泣き止め。黙って泣くな。怖ぇ」
「……………………」
「……わかった。貝でも泣いてもいいから、もうちょっとしたらとりあえず部活行こうぜ。無断で休んだら真田にぶん殴られる」
「……ジャッカルがね」
「そう。俺が」
げんなりとジャッカルはうなだれた。
うなだれたまま、階段の手すりに両肘を掛けている。
「……ジャッカル、先行って。わたし後から行くから」
「あー、いいって」
「いくないでしょ……真田の裏拳痛いよ」
「……まー…いいって…」
全然よくなさそうな顔してるのにそんなことを言う。
「……なんで?」
「なんでって……泣いてるマネ置いていけねぇだろ。普通」
ジャッカルの普通は優しすぎる。いつも。それで損ばかりしている。
「……真田に殴られそうになったら、わたし、体を張って守るよ」
「え、俺を?」
「うん」
「真田が女を殴るのって想像できねー……多分切腹とか言い出すぜ。婦女子に手を上げるとは、俺たるんどる、とか叫んで」
「切腹……真田なら本気でやるね……」
「白い裃でな。ふんどしでな」
「辞世の句も読むよね、絶対」
ふんどし姿の真田がリアルに想像できておかしい。あ、だめだ、口がゆがむ。
涙がひっこんだ。うひゃっと笑ってしまった。
ジャッカルもさぞ爆笑してることだろうと見上げると、
「お前、真田のこと話してるときほんと楽しそうだよな」
しょうがねぇなぁ、みたいに微笑ましくジャッカルが微笑んでいた。
…ん?
なんだその慈悲深い笑みはジャッカル。
「……だって真田おかしいんだもん」
「いやぁ、それだけじゃねーだろう、その顔は」
「…は?」
「隠すなって!わかってっから!」
「……何が?」
「心配すんなって、仁王じゃねーんだから誰にも言わねぇって!」
ジャッカルは目を細めてニヤニヤニヤニヤしている。
「お前、真田のこと好きなんだろ?」
「…………!(ヒュッフ!)」
「ほーら、かたまってる」
「……ち、ちが……!」
「大丈夫、俺は応援するぜ、マネージャー!」
語尾に星でも付けそうな勢いで。
口元からこぼれた白い歯がきらりと光るような勢いで。
そんなことをお前が言いだすので。
「わたしが好きなのはジャッカルだってば!!!!」
非常階段の中心で愛を叫んでしまった(古)(このセリフ今日二度目だし!)
ジャッカルは口元からこぼれた白い歯が星のように光る笑顔のまま固まって、二十秒後に解凍したあとは真っ青になってた。
そんで、
「俺………?」
たった二文字の発声が震えている。
わたしはうなずく。
「え、違う、だってお前は…………好きなんだろう?お前は、真田が」
「ちっが……大体なんで真田!」
「だって前からなんか……真田のことよく話してっし…………」
「それは真田おもしろいから!」
「うそだろ……」
大きい手で口を覆って、今だに顔が真っ青で。なんか吐きそうなジャッカルだ。
なんだその反応は。
ああイライラする!
「うそじゃない!マジにお前だ!お前が好きだ!」
「うわ、ちょ、声がでけーよ!」
「うるさい!もうずっと前から、」
S そうさ
О お前が
S 好きなのさ
!
そのころのテニスコートのみなさん
「せっかくの告白に『お前』はないのう」
「男前すぎだろぃ」
「……(ふんどし)」
「真田くん、落ち込むことはありませんよ。切腹は武士の覚悟の証です」
「ジャッカル先輩なんかえづいてないスか?(ダッセ!)」
「ジャッカルとが交際する確率…………」
「あ!キスした!?」
「いや、頭突きじゃ」
「いささか乙女としての品位に欠ける行動ですね……」
「つうかあの身長差で頭突きってありえねえっしょ!」
「暴力的妙技だな」
「……(ふんどし)」
「にしても仁王、よくこうなるってわかったなー」
「ほかしといたらいつまでも告りそーもないからのぅ、うちのマネ」
「奥ゆかしくてよいではないですか」
「奥ゆかしいってなんスか?」
「つまんねぇキスしろぃ、キス!」
「ジャッカルとがそろそろこちらに気づく確率……」
「うわこっち見た!」
「逃げろ!」
「ヒューヒューじゃのぅ」
「……(ふんどし)たるんどる」
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